倫理観ちゃんのブログ

最高の人生にする

呪いは水色

嘘みたいな居心地の良さで なんのためらいもなく彼に抱かれた 「やっぱりめっちゃいい匂いするよ」って甘い声で言ってあたしの首筋に鼻を埋めて緩い力で抱きすくめたまま鎖骨にキスした彼のことを好きじゃなくいられるのかもうわからない 彼女じゃない女を抱くためにそんな優しい触れ方をするなんて「そういうのズルいですよ」って笑った 貸してもらったモコモコの部屋着とお揃いの彼の服にファンデーションが付いてしまわないか心配だった そういうところは気にするのに恐らく都合のいい女の1人として扱われていることは気にならなかった バグってるね あたし お風呂にあったビオレのメイク落としと女性用シャンプーとコンディショナー 予備の歯ブラシ やけに片付いた部屋 並んでテレビを見ている彼の携帯にひっきりなしにかかってくる不在着信 そういうものを見つけて裏切られたと思うのは間違っている 

 

「かわいい」から始まって 優しく労わるようなキスをされて ベッドに連れて行かれて「だってセックス好きでしょ?」って囁かれて押し倒された そうだよ あたしが好きなのは彼じゃなくてセックスなんだ あたしはあたしが傷つかないための呪いをかけた 彼の背中に手を回したら いつもの癖で「好き」と言いそうになってしまって必死で耐えた だって彼が好きなのもあたしではなくセックスだからだ

 

 

ありがとう 目が覚めた

 

 

いくらタイプだとか好きだとか付き合いたいだとか言われたって 最寄り駅から家まで帰る道で合わせてくれない歩幅や繋いでくれない手が全てを物語っていた 身分違いの期待をいつのまにかしてしまっていたあたしに気付く 失恋したんだなあ だって今 真っ暗な部屋で泣いている 賢くなることがこんなにも辛いってだれも教えてくれなかったじゃん 

 

あたしの好きなタバコを吸わずにIQOSをセットする大好きな横顔も 無造作に置かれたあたしがあげたチョコの青い紙袋も 細身の体によく似合う水色のワイシャツも 狭いベッドに潜り込んで躊躇いがちに絡ませてきた指先も 全部忘れられないかもしれない この呪いは解けるだろうか あたしたちはどれだけの夜を共に越えても きっとこれ以上の形にはなれないのだろうな 

 

さよなら あたしの気持ちはもうゴミ箱に捨てるよ

さよなら きっと あなたのことが大好きだったよ